幸福な場所

今日は非常に気分が塞ぎ込んでいたいたので一人で動物園に行ってきた。以前は同居人と破局の危機を迎えるほどに深刻なけんかをした後に二人で行ったこともある。いろいろとうまくいかなくて、その日の天気がよいと、動物園に行くことになる。今日は年間パスポートを買ってしまった。2400円。四回行けば元がとれる。それ以上に足を運ぶことは確実だろう。
天気がよい。日差しを浴びてじっとしていると、色の濃いジーンズをはいた足が熱くなる。動物園の中で見かけた人は、ほとんどが3歳くらいまでの、幼稚園にも行っていないような幼い子供たちと、若い親たち。ゴリラの黒さとごつさにびびり、カバの大口に興奮している。パンダ亡き後の上野動物園では、ゴリラとカバが人気らしい。私はパンダにはあまり興味がなくて、はじめて一人で動物園に足を踏み入れたのはまだ子供のゴリラを見に行くためだったし、そこでカバの魅力に取り憑かれたのだった。カバに人が群がる姿を見て、飼育係のような気分で喜んでしまった。ゴリラは強い日差しを防ぐために、ずいぶんとおしゃれな柄の布を、器用に頭からかぶっていた。なかなか賢い。次は日傘に挑戦してみてほしい。昼飯は草をもぐもぐと食べているサイの正面のベンチで、途中で買ってきたパンをもぐもぐと食べた。
動物園の中は、急いで歩いている人もいないし、車も自転車も通らない。この季節だったら公園も気持ちいいのかもしれないけれど、巨大な道と化してしまっている所も多い。ここはよい。ネクタイを締めた人も仕事で駆け回っているわけではなく明らかにさぼっているだけだし、小さな子供たちはもちろんその親たちも幸福そうな顔をしている。おじいさんまたはおばあさん、その子供、そのまた子供という三人の組み合わせもちらほらと目に入った。泣いている子供も怒られている子供もいたのはもちろんだけれど、この世の幸福の単純な姿が凝縮されているような場所だった。それが平日の動物園。
歩きまわって疲れてしまった。強い日差しで顔も日焼けした。缶コーヒーを買って、芽吹いたばかりの新緑を身につけた柳で木陰になったベンチで本を読む。動物園の隅っこにあって、順路からは少しばかり外れているせいで、人はあまり多くない。それでも、本を読んだり池を眺めたり、マスゲームをしているかのように一糸乱れぬ隊列を組むペリカンのダンスを鑑賞したり、いろいろな人がいた。
気分が少しほぐれた。