桜の木の下の穴掘り

今年はひとりでちょろちょろと桜の花を見に行った。家の周囲ではいろいろなところで咲いている。名所と言われているのは飛鳥山公園だけれど、目ざわりなぼんぼりがぶらさがっていて、人も多くて、「今年はお花見をしましたよ」と他人に言うために来たかのような気分になってしまった。花見ってよくわからないんですよね。どうせならピクニックに行きたい。
というわけで、先日は石神井川を中板橋あたりまでのぼっていった。川岸がコンクリートで固められたどぶ川と見紛うような都内の川は、しばしば桜の花が延々と続いている。どこまで続いているのか興味があってしばらく自転車を漕ぎつづけていたのだけれど、キリがなくてやめた。おまけに、上を向いて花を見ながら自転車で走っていたら、目が疲れた。その昔まだ実家から大学に通っていたころ(最初の一年間)、埼京線の窓からきれいに咲いた桜が見えて、いつかその場所に行ってみたいと思っていた。とうとうそれを達成したわけだ。何年越しなのだろう。まあとにかくそれだけはよかった。
昨日は染井霊園へ。芥川龍之介の墓などがある。日常的な通り道である。花びらが地面を埋め尽くし、多くの木々の中で何列かの桜並木ができていた。コンクリートの中に桜だけが並んでいるというのは、実はけっこう殺風景で、墓場の桜はきれいだった。夜遅くなった帰り道もそこを通って、辺りをぶらぶらとうろついた。
どうでもいい話だけれど、よく「桜の木の下には死体が埋まっている」と言いますよね。先日、仕事先で、それを考えると水銀灯に照らされた桜の木が怖くなると言う人がいた。しかし私はそのようには感じない。そこではたと思い当ったのだが、私がその言葉で思い描いていたのは、「桜の木の下に埋められた冷たくて白い死体」ではなく、「えっさほいさと死体を埋めるための穴を掘っている二人の男」だったのである。なんとなく牧歌的だ。
そうでもないか?