読了

不可能性の時代 (岩波新書)

不可能性の時代 (岩波新書)

いままで読んだ大澤真幸の本の中では、最も明快で読みやすかった。特に第5章と第6章の議論は、身につまされるところも多く、没頭してしまった。家族の排除や他者の/への視線のあり方についての分析には唸らされた。オタクにこだわる部分については何とも言うことができないが。
分析の基本的な枠組みは、ほとんどジジェクのそれと同一と言ってよい。その意味で理論的な意義はほとんどないだろう。日本の現実にそれを適用して鮮やかに分析しているという価値はある。とはいえ、理論を換骨奪胎する力はいつもながらにすごい。そのことで、多文化主義原理主義との隠れた共存関係が明らかにされている。
それ以上に、今回もまたキャッチーなフレーズや概念を多々作り出している。これまたそう簡単にできることではない。そんなことをする必要はないという意見もあるだろうが、読者の目を惹くにはそれが最もよい。理解が容易になるというより、理解しようとする動因になる。読者への親切というだけでなく、書き手による体系化の度合いをも表しているのではないだろうか。

うーむ。ろくでもない感想文になってしまった。内容についてもほとんど触れていないし。こんな感想文を読んで実際に本と手にしようと思う人はまずいないだろうなあ。中身のない感想文と研究論文の中間的な文章を書けるようになりたい。