ネグリ講演会 於東京大学安田講堂

東京大学で開催されたネグリ講演会(ネグリ不在)に行ってきた。ほぼ満員。姜尚中上野千鶴子の喋りが非常にうまい。タイプはだいぶちがうけど。大して中身のない決起集会みたいなものになるのかなあと思っていたけれど、ネグリ自身が用意していた原稿の日本語訳の内容がよかった。別にそんなに新しいことを言っているわけではないけれど、さしあたり彼の用語法では「生権力」が統治・支配の権力、「生政治」がそれに抵抗するマルチチュードによる構成的権力(とはいっても主権を構成するものではない)らしい。こうやってフーコーはマイナーで理解しがたい思想家になっていくのだろうなあ。まあ、内容としてはわざと不明瞭にしているのか、かっこつけているのか、ネグリの著作を読んだうえで聞かないとさっぱりわからないだろうなあと思った。上野千鶴子によるネグリの位置づけは非常におもしろかった。考えてみたこともなかったので、単なるアジテーターではなく、学者としても一流なのだろうと思う。フェミニストとしてはまったく好きではないのだけど。
おもしろかったことを三点。石田英敬が発言中に野次が飛んで姜尚中が静かに怒る。安田講堂の入り口のところでつまらない演説をしていたのが中に入っていたらしい。姜尚中は「不規則発言はするな、後で聞くから」と言っても収まらなかったところ、なんと姜尚中はそいつらのもっていた拡声器を床に投げつけていた。おお、毅然としてかっこいい。石田発言はたいへんいくだらなかったので、野次が飛ばなければ本当につまらなかったと思う。彼らに感謝しなさい。とはいえ、その野次もまたひどかった。「ほにゃららら〜」「そうだそうだ」と、二人で(そう、二人しかいなかった)妙に息があっていて気持ち悪かった。やるなら一人でやるか、収拾がつかないくらいの大人数でやるべきだ。全体が終了して外で拡声器を使用して文句をたれるのではなく、退去させられるまでわめくか、終わってから姜尚中とガチで戦うべきだったと思う。そんな腰抜けだから誰からも見向きをされないのである。
二点目。ノンストップで喋り続けるネグリ。日本とフランスで国際電話が繋がったのだが、こちらからの質問に答えて延々30分、ノンストップで答えていた。通訳は三浦信孝氏。学者としても立派だしこういった通訳にも慣れているのに、その三浦氏をして「何を言っているのかわからない部分が多かった」と会場の笑いを誘っていた。三浦氏が言うのだから本当だろう。そういいながらも的確なまとめをしていたけれど。どうやらイタリア語の訛りがそうとうにひどかったらしい。ちなみに私にはほとんど理解不能。それにしても、電話口で相手の相槌もないのにあれだけの勢いで喋り続けることができるのというのは本当にすごい。これまでもずっと自分の話は相手に聞き届けられてきたということなのでしょう。ある意味では幸福。
三点目。休憩時間にて。安田講堂の前で煙草を吸っていると、おしゃれなかんじのカップルが会話をしている。女「何言っているのかよくわからなかったよ〜。おもしろかったの?」男「ははは。わからないけれど何かかっこいいっているのが良いのだよ」女「ええ〜、何それ〜」男「わからないかなあ、ははは」。
……なんじゃそりゃ。思わず口を挟みそうになったぜ。周囲に丸聞こえのでかい声で。軟弱雰囲気左翼って本当に嫌いです。そもそもかっこよくない。