引っ越し

で、その間、引っ越しをしていた。そんなに時間がかかるわけがないと言うなかれ。不動産屋を廻り、物件を廻り、とにかく歩き回り、契約をし、新しく買い揃えなければならないものを買い求め、多くのものを捨て、引越屋を手配し、周囲に引っ越しをすると宣言し、水道電気ガス各社に電話をし、荷物を詰め、忘れていたことを思い出し、役所に行き、引っ越し後に設定されている締め切りを気にし…と無限の労力を必要とするのである。疲れますよね、引っ越し。何でこんなことになったのかといえば、それは遡ること約一年前(後略)
苦痛ばかりで本当に疲労したのだが、何よりも辛かったのは物の整理である。まずはゴミ処理。何曜日が何のゴミで、いったい何を出せばよいのかということをきちんと理解していなければ、新居にゴミを持ち込むことになる。したがって神経を研ぎ澄ましてゴミの整理をする必要がある。しかし難しいのは、何がゴミとなるべきであるのかということが皆目見当がつかないということである。すべて荷物を引き払った後、そこに残ったものがゴミとして規定されるべきであろうに、世間は先にゴミを処分しておけと言う。殺生な。しかし従順で世間の流れに棹挿すほどの力をもたない私は、粛々と慣習に従ったわけである。
また荷作りも大変である。引っ越し業者が箱を持参してくれるのはありがたいのではあるが、彼らが指定した箱に大きさも様々な事物を封入していくのはこれ困難きわまりない。本という一定の大きさを占める物からしてそうである。大きさ別にしては引っ越してから何がどこにあるのやら思いだせん。かといって種類別にせんとすれば空白の大きさに対処できなくなる。与えられた箱の数は決まっている。これまた無理難題であって、それを超えては引っ越し当日に支障を来たすにもかかわらず、一度きりですべての荷物を運べと言う。無茶な。前回は目の前にぶらさがっているおたまに気づかなかったが、今回も似たような精神状態ではあった。
これというのも労働者同居人が(後略)
〈追記〉いや、同居人に捨てられたとか同居人を捨てたとかそんなではなく。